たらればもしもしこんばんは。

これは私の愚見、妄想、自伝、7割方はフィクションです。パフォーマンスです。真に受けてはいけません。

伝説はかく語りき

 

二年前の、その日は雨がちらついていた。

 

次の日のNCプログラムの作成、加工用の図面を早々に書き終えた私は、主任とアイコンタクトを交わし、定時で仕事を切り上げた。

当時の私たちのアフターファイブルーティンは決まったものだった。

 

コンビニで腹ごしらえを済まして向かった先はパ◯ラー◯◯ぶ◯野店、職場から車で2分の行きつけのパチンコ店だ。

いつもと変わらない0/0の大当たり回数が立ち並ぶ過疎島、常連のメガネ君、床屋さん、ガソ豚、ネックウォーマー、ブドウおじさん、56番くん、piko太郎、資材部のタカギさん、そしてアンジェリカ、スタメンは全員揃っていた。

 

そしていつもと変わらず主任は光の速さでパチスロ魔法少女まどか☆マギカに着席した。

私はお目当てのSammy台が珍しく全て埋まっていたため、4ぱちコーナーの隣にある掘りごたつで暖を取り、爆音のせいで聞こえもしないテレビを見ながらタカギさんと談笑していた。

 

 

30分ほどスロットコーナーをチラチラ見ながらそうしていただろうか、タカギさんが今日は帰ると言うので、自分も今日はまだ何も打っていないが仕方がない、主任に挨拶して帰ろうかと思い立ち上がろうとした刹那、彼は現れた。

 

 

自分の向かい側、掘りごたつとテレビの間にすっと入ってきた彼の風貌とオーラは他とは一線を画していた。

背中まで伸びた長い白髪と長い白ひげ、片目は義眼、ガリガリで作務衣を着た見た目は70代後半くらいの老人だった。

 

 

一局どうだ?兄さんは千円でいい。

 

そう言って彼は掘りごたつの傍から将棋盤と駒を取り出して、5000円札を二本指で挟んでチラつかせた。(※賭け将棋は犯罪です。)

 

私は将棋の腕に覚えがあったわけではないが、どうせ打つ台もなかったし、なによりこのただならぬオーラを纏った老人を負かしてみたいと思った。

 

のります。10分切れ負けでどうでしょう。

とそれっぽい事を言うと、

 

老人は黙って頷き、デジタルの対局時計を10分に合わせた。

 

7六歩、3四歩、と角道を互いに開けてから、

6六歩、8四歩、6八銀、6二銀、5六歩、5四歩、5八飛、そう、私は唯一知っている戦法の中飛車を選び駒を進めた。

 

 

 

 

私はこの老人にはどうあがいても将棋盤の上では勝てないと理解するまで5分もかからなかった。

 

負けました。

と、一礼を済ませて千円札を渡した。

 

老人は

毎度あり、また指そう。

と言いながらスッと立ち上がり一つの台へ向かった。

 

 

それは、CRぱちんこ爽快 美空ひばり不死鳥伝説だった。

 

着席して私から持っていった千円札をサンドに入れて玉をはじき出すと、

7回転ほどで川の流れのようにリーチを経由して、けたたましい音と光に包まれて恍惚とした表情を浮かべた老人は液晶に七を3つ揃えていた。

 

次々と連チャンを重ねて玉を積んで行く様を私は掘りごたつからぼーっと眺めていた。

 

 

 

 

2万発強の銀玉を景品交換した老人は私にあたたかい缶コーヒーを奢ってくれた。

 

なあ兄さん、

と老人が語り出した。

 

人生ってのは面白味が全てだ。何かで迷ったりした時は、それが面白そうかつまらなそうかで決めちまえば大概は上手くいく。

そういうふうにできてるんだよ。それじゃあまた。

 

そう言って前歯の金歯を光らせて老人は帰っていった。

 

 

 

 

 

知らず知らず 歩いて来た
細く長いこの道
振り返れば 遥か遠く
故郷が見えるでこぼこ道や 曲がりくねった道
地図さえない それもまた人生


ああ川の流れのように ゆるやかに
いくつも 時代は過ぎて
ああ川の流れのように とめどなく
空が黄昏に 染まるだけ

 

生きることは 旅すること
終わりのない この道
愛する人 そばに連れて
夢探しながら
雨に降られて ぬかるんだ道でも
いつかはまた 晴れる日が来るから


ああ川の流れのように おだやかに
この身をまかせていたい
ああ川の流れのように 移りゆく
季節 雪どけを待ちながら

ああ川の流れのように おだやかに
この身をまかせていたい
ああ川の流れのように いつまでも
青いせせらぎを 聞きながら

 

美空ひばり

作詞 秋元康

作曲 見岳章

 

 

 

おわり